エスター

原題：ORPHAN
監督：ジャウム・コレット＝サラ

ネタバレあり

DCE制作のオリジナル・ホラー映画、原題は「孤児：ORPHAN」。
監督は『蝋人形の館』のジャウム・コレット＝サラ、名子役のイザベル・ファーマンを謎めいた少女エスター役に迎え、万全の態勢で望んだサイコ・ホラー。

物語は・・・
３人目の子供を流産してしまったケイトは、悪夢にうなされるほどのショックを受けて、アルコール依存症の治療を受けていた。
養子を迎え入れる家庭の条件は健全でなければならず、アル中であることが発覚すれば権利は取り消されてしまうからだ。

難聴の娘マックスと、やんちゃ盛りの息子のダニエル、建築家で優しい夫のジョンとの生活は、満足とまではいかなくとも、充分に幸せなはずだった・・・。

だが、流産したジェシカに与えたかった愛情を養子に注ぎたい、という気持ちは強く、夫婦で孤児院を訪問する。普通の子供達の中で、一人歌を唄いながら絵を描く少女。天使のような笑顔でジョンに応えた少女の名はエスター。物語を語りながら、絵を進めるエスターの知性の豊かさに、ジョンもケイトも惹かれていた。
シスター・アビゲイルは、エスターはロシア生まれで、彼女を招いた夫婦は火事で死亡していたが、逆境にも負けず、とても賢くて行儀の良いお姫様のような子だと説明する。首と手首のリボンを外そうとした時以外は、とても素直な子だという。

２人はエスターを養子として迎え、我が家へのドライブの途中で難聴のマックスのために手話を教える。
家に着いたエスターは、マックスに手話で挨拶し、祖母に丁寧な挨拶を披露する。兄のダニエルだけは、この突然の異邦人に遠慮なく文句を言うが、聡明で明るいエスターは、すぐに他の家族と打ち解けてみせる。
家族がエスターに夢中になるほど、ダニエルは反発し、ツリーハウスに友達と篭りがちになる。

イエール大学でピアノを教えていたケイトは、流産のショック以来、仕事も辞め、酒に溺れた過去があるため、祖母は必要以上に口うるさく注意する。
初登校の日、エスターはドレスとリボンを纏い学校に行ったため、同級生の冷やかしに遭う。

林でエアガンを撃って遊んでいたダニエルは、好奇心から鳩を傷つけてしまい、そこに来たエスターが「早く楽にしてあげて、天国に行かせてあげるのよ」と言い、怯むダニエルを横目に石でトドメを刺す。
また、エスターは入浴中に鍵を掛ける習慣があり、その間に衣類を片付けに部屋に入ったケイトは、描きかけの絵と引き出しの奥から一冊の古びた聖書を発見する。

学校でも聖書を持ち歩いていたエスターは、いじめっ娘の目に留まり、聖書をばら撒かれた挙句、首のリボンに手を掛けられる・・・凄まじい絶叫を放つエスター。

ケイトは、ピアノのレッスンを通してエスターと交流を行い、家族の一員として迎える証拠に写真入の手帳にエスターの写真も加えてみせる。次に死産したジェシカの遺灰を撒いた土で育てた白バラを見せ、エスターは「ジェシカは幸せね、こんないいママがいて」と言い、ケイトと抱擁する。

ケイトとの距離が近づいたと喜ぶケイトだったが、ジョンとのSEXをエスターに見られ、次の日にフォローをしに部屋へ入る。黙々と絵を描き進めるエスターは、ケイトの遠回りな説明にあっさりと「FUCKでしょ」と冷たく言い放つ。

父親のジョンとマックスの三人で公園に来ていたエスターは、ジョンが巨乳の人妻との会話に気を取られている隙に、いじめっ娘のブレンダを発見する。行動を起こしたエスターは、マックスの見ている前で、遊具の高台から少女を突き落とす。
エスターは食事の席で、「彼女が勝手に落ちた」と言い、マックスも手話で「滑って落ちた」とフォローする。その後の難解な手話をエスターは横目で理解し、「パンとバターを取って欲しいんだって」と言う。ダニエルは、エスターに嫌悪感を爆発させ、不気味だから友達にもバカにされる、こんなヤツ妹じゃないクソッタレと食事の席を立ってしまう。
罰としてツリーハウスは施錠され、エスターに謝るまで鍵は開けないと父親に怒られる。

ケイトはマックスとエスターを連れ、スーパーで買い物中にシスター・アビゲイルから電話を受け、歯の治療記録と健康診断書を送って欲しいと頼まれる。その会話を離れた場所からマックスに読唇させたエスターは、ブレンダの事件を教えていることを知る。

帰宅したエスターは、超人的な技量でピアノを演奏し、元ピアノ講師のケイトを驚かせる。エスターは、
「教えたかったんでしょ？息子はピアノに興味が無いし、娘は耳が聞こえないんだもの」
と、冷たく言い放つと席を立つ。エスターの態度の変化に気づいたケイトは、ジョンに相談するが、ケイトもまたエスターにジョンの浮気未遂を讒言されていて、最後は２人で口汚く罵りあってしまう。
２階の自分の部屋で、その騒動を聞きながら、エスターは面白そうに笑みを浮かべ、キャンパスに筆を走らせていた・・・。

次第に刺々しくなっていく夫婦をよそに、エスターは上機嫌で来客を迎えるが、それがシスター・アビゲイルと分ると顔を曇らせる。
シスター・アビゲイルは、実はエスターには問題があり、トラブルの中心には必ずエスターがいたと告げる。そして、里親の家の火事も放火で、まだ犯人は捕まっていません、と暗に示唆するが、９歳の女の子だぞ、とジョンは取り合わない。ケイトは気になっていたことが、シスター・アビゲイルの言葉で裏付けられたと感じ、エスターを精神カウンセリングに連れて行くことをジョンに納得させる。

その頃、マックスには遊びと偽って、シスター・アビゲイルの車の前へ突き飛ばすエスター。急停車してマックスへと駆け寄るシスターの背後から、ハンマーを振り下ろすエスター。まだ幼いマックスに指示を出し、シスターを移動させていると、通行車が現れ、手を離した拍子にシスターは雪の上を転げ落ちる。
だが、執拗なエスターは、それを放置せずに、マックスの目の前で、トドメとばかりにシスター・アビゲイルに何度もハンマーを振り下ろしていく。

ダニエルのツリーハウスで、エスターは顔の血を拭い、淡々と証拠をバッグに詰めて隠蔽していく。怯えるマックスを巧みに説得し終えると、２人は家へと帰る。その姿を目撃したダニエルは、深夜ナイフを持って現れたエスターに、大人顔負けの脅迫をされ、小便を漏らすほどの恐怖を受ける。

両親が診察させたカウンセリングの結果、エスターには何の異常も無く、問題があるのはアルコール依存症とマックスの事故で引け目をかんじているケイトの方だと言われる。

その頃、カウンセラー曰く「物凄くシャイで引っ込み思案で傷つきやすい」エスターは、バカ医者を上手く騙せたかどうかで苛立ち、トイレの中で狂乱していた。

帰宅したジョンは、ケイトよりカウンセラーの言葉を信じ、エスターを災難に遭った可哀想な９歳の女の子だと信じていた。
そこにケイトの電話が鳴り、孤児院からシスター・アビゲイルが行方不明だと聞かされ、エスターへの不信感を募らせる。捜索の結果、シスター・アビゲイルの惨たらしい死体が発見され、ケイトは疑いを強める。ネットで症例を調べたケイトは、人格障害の特徴をジョンに見せつけるが、相手にしてもらえない。

エスターの演技も、そろそろ精神的に限界が近いのか、ブラックライトで浮かび上がる真実の絵は、狂気に満ちていた・・・。

ロシアの施設に調査を依頼する一方で、子供達にエスターの事を聞きだそうとするケイト。
エスターも父親のジョンに取り入り、徐々にケイトへ攻撃の矛先を向けていた。

エスターは父親の助言を実行するように見せかけて、ジェシカの花壇の白バラを花束にしてケイトを挑発する。ジェシカの思い出を踏みにじられたケイトは激発し、エスターを突き飛ばすが、ジョンは自分の助言のせいだと庇う。その夜、作業小屋の万力で自らの腕を骨折したエスターは、それをジョンに見せ、病院に連れて行かせる。これで、決定的にケイトを危険と判断したジョンは、ケイトを自分とエスターから遠ざけてしまう。精神的なショックから、止めていた酒を買い手を出しかけるが、ギリギリで理性で抑え、流しのシンクに中身を捨てる。
次の朝、子供を学校に送り届けていると、ダニエルが教科書を落とし、ケイトが慌てて拾いに出た隙に、エスターはサイドブレーキを外す。マックスを乗せたまま車は坂道を後退し、運良く事故は起こさずに除雪の壁で止まった。
祖母を迎えて、ジョンと３人で話し合いが持たれたが、マックスは事故はエスターのせいでは無いと示し、未開封のワインが娘の手からジョンに渡っており、もうケイトが何を言っても信じてはもらえない状況に追い込まれていた・・・。
結論は、アルコール依存症の施設に一週間入るか、離婚。
それを見下ろす階段には、本当のことを言えばママを撃つわ、とエスターがマックスを脅していた・・・。

堪りかねたダニエルが、マックスを問い詰めると、数枚の絵で記されたのは、「突き落とされた少女」「殴り殺されたシスター・アビゲイル」「証拠品を隠した木の上の小屋」。証拠品があれば、あいつを捕まえてもらえる、とダニエルは言うが、その一部始終をエスターは盗み聞きしていた。

夜中に子供を連れ出そうとしたケイトは、部屋に座っていたエスターに驚く。エスターは、もう正体を隠すこともせず、こうなったのは貴方が家族を大切にしなかったからよ、と冷たく言う。ワインの隠し場所もケイトの過去の経緯や気持ちも、全て盗んだケイトの手帳から得ていたのだ。

ケイトは反撃として、エスターの聖書を縫いぐるみから見つけ、それが『SAARNE INSTITUUTE』の蔵書である事を突き止める。ここは、ロシアの孤児院ではなく、エストニアの精神症の病院だった・・・。

一方、証拠を見つけにツリーハウスに昇ったダニエルは、エスターの罠に嵌り、火を放たれて落下し気絶する。「平気よ、天国に行くんだから」と、石でトドメを刺そうとするエスターを、突き飛ばしたのはマックスだった。
ダニエルは病院に搬送され、一命は取り留めたものの、意識が回復せずICU（集中治療室）に寝かされていた。火を点けることが出来たのは、エスターかマックスと言われても、煮え切らない態度を取るジョンに、今夜の内に私も出て行くから、エスターも追い出して、と叫ぶケイト。
　　　　　　　　　　　
その頃、身の危険を感じたエスターは、ジュースを買いに行くと偽り、大胆にもダニエルの病室へ侵入。
装置を外し、枕で窒息させると、笑みを浮かべながら、再び淡々と装置を繋ぎ直した。
異変を察したマックスは、両親を呼びに行くが、すでにエスターの凶行は終った後だった。
奇跡的に心肺蘇生に成功したダニエル・・・しかし、遂にケイトの怒りが爆発し、エスターを殴り飛ばしてしまう。
それを見たジョンや医師は、ケイトに鎮静剤を注射し、強制的にベッドに運んでしまう。朦朧とする意識の中で、ジョンはダニエルの事は大丈夫だ、と言い、娘達を連れて家に帰ると言い残す。

マックスのベッドにおやすみをしに来たジョンと入れ違いにエスターが現れ、マックスにキスをする隙に補聴器を盗み取る。

・・・フルーツを皿に盛り、ナイフと共に運んで、ジョンの横に座るエスター。
その顔には化粧がしてあり、服も黒いドレスに着替えていた。
「愛してるって言ったじゃない」
大人びた表情で笑みを作ると、ジョンの股間に「私に任せて」と手を伸ばす。泥酔しているとはいえ、驚いたジョンは飛び起き、言い聞かせるように「ママとの間にある愛だ、わかるだろう」と優しく言う。
「ううん、わからない・・・私は本当に貴方が好き」
子供とは思えない言葉で、巧みにジョンを慰めるエスターに、ついにジョンは泣き出してしまう。
しかし、再びエスターが股間に手を伸ばすと、正気に返ったジョンは、部屋に戻りなさい、と怒る。
子ども扱いしないで、と叫ぶエスターに、「明日、シスターに連絡する、もう君をこの家に置いておけない」とジョンも叫ぶ。
「・・・いいわ」

一方、病院のケイトに『SAARNE INSTITUUTE』の医師バラバから電話が入る。彼は、ケイトがFAXしたエスターの写真を見て、電話の周りに彼女がいないか確かめる。主人が家に連れて帰ったと言うと、「今すぐご主人に電話してご家族を避難する様に言ってください・・・それから警察も呼んで」、と。事態が飲み込めないケイトが、自分が言っても聞いてもらえない、と伝えるとバラバ医師は、こう言った。
「彼女は子供ではない、大人の女性だと・・・」
下垂体機能不全による発育不全で子供にしか見えないが、本名はリーナ・クラマーで実年齢は33歳だ、と告げる。更に、リーナは最も凶暴な患者だったため、スタッフを守るための拘束具が体に喰いこみ、首と両腕に傷痕が残っているはずだ、と。
エスター（リーナ・クラマー）は、エストニアで父親を誘惑するが失敗し家族を皆殺しにして放火したという。

その頃、完全に狂気に支配されたエスターは、入れ歯を外し、化粧を落とし、荒れ狂った。物音を聞きつけたジョンが、部屋に入ってみると中は台風でも通ったようになっていて、ブラックライトの照明に映し出されたのは、壁一面の狂気の絵だった。炎上する家、血の涙を流す女の顔、行き場の無い性欲が噴出したような隠微な絵、無数の死体・・・。

電気のブレーカーが落とされ、暗闇の中で怯えながら進むジョン。
雪の中を失踪する車からケイトは、警察へ通報し、ジョンの携帯を鳴らすが留守番電話のまま。
その頃、ジョンは、エスターに襲われ、ナイフで滅多刺しになっていた・・・。

刺し続けるその顔には、元の天使のような愛らしさは微塵も無く、醜悪な女そのものの顔が、悪鬼のように階段の上のマックスを睨みつけた・・・。

ようやく家に車で飛び込んだケイトは、床で倒れているジョンの無残な死体を見つける。
懐中電灯を手にマックスを探すケイト・・・。
フェイントを仕掛けられたケイトは、銃で撃たれるが、傷を縛り、窓の外へ逃れる。屋根づたいに移動して、温室の中にマックスを見つけたケイトは、手話でマックスに「動かないで」と伝えるが、エスターが発砲してくる。追うエスターを止めるため、ケイトは温室の天井ガラスから飛び降り、エスターを下敷きにして銃を奪う。自らも重症を負いながら、マックスを連れて家から逃れるケイト。そこへ警察が到着し、事態は収拾したかに思えたが、
温室から復活したエスターが森を駆け抜け飛び掛ってきた。
揉み合いながら銃を落とし、転がり落ちた先の凍った池の上で襲われるケイト。
ナイフを持ったエスターが狂人の力で斬り付けてくるため、致命傷を受けないように頑張るが、ついに馬乗りになられ、顔にナイフが迫る・・・。

そのとき、転がっていた銃をマックスが発砲・・・弾は逸れたものの、池の氷に穴を開け、２人は冷たい水の中へ。水中での死闘の末、ようやく這い上がったケイトの後から、またエスターが現れる。

「私を助けて・・・ママ」（背中にナイフ隠してます）

しばしの沈黙・・・

「私は、あんたのママじゃない！」

ケイトの後ろ蹴りが見事に決まり、嫌な角度で首が曲がり血を吹くエスター。
そして、冷たい水の底へと沈んでいく・・・。

こうして、少女の姿をしたサイコ女は葬り去られ、ケイトとマックスは恐怖の余韻に震えながら、悪夢のような体験から逃れる事ができたのだった・・・END


SPエディション：別ED

歌を口ずさみながら、入れ歯を戻し、化粧をするエスター・・・。

リボンで傷痕を隠して、ドレス姿で警官隊が囲む一階へと階段を進むと、スカートの端を摘んで軽く会釈する。

「こんにちは、私はエスターよ」


まぁ、それなりに良く出来た映画だと思う。
死人の数こそ少ないが（過去を除けばシスターとパパだけ）、イザベル・ファーマンの演技力と特殊技術によるメイクで、得体の知れない恐怖を表現することに成功している。
成長しないと言っても、老化はするわけで、33歳の肌と顎を美肌メイクと入れ歯で誤魔化していた、というシーンは、とても気持ち悪い。
さすがに無理があるだろ、という展開だが、そこは余り突っ込まずに観ないと、この映画自体が成立しない。

サイコの面に注目すると、成長しない体に強いコンプレックスを感じながらも、それを利用する強かさも併せ持ち、プライドを傷つけた相手は許せない、という女性的な殺意衝動も理解できる。
なにより、９歳の見かけに３３歳の知性と経験が入っているのだから、大人を煙に撒くぐらい容易い事なのだろう。ロリババァと吐き捨てることもできるが、この子供がそんなことをするわけが無い、という一般的な思い込みが、エスターの武器であり、また自身の愛が成就出来ない哀しみでもある。
私は、時折書いている通り、子供にも人は殺せる、という持論の人なので、ケイト以上に疑うとは思うけど。

ちなみに別EDだが、水の中から這い出した後だと思うと、かなり不気味さは増す。もう、さすがに警官も騙されないとは思うが、最後までエスターという少女を演じながら警官隊の中へ降りていくシーンは、結構心に残るものがある。

それにしても、本編を観てもらえば分るが、本当にエスターはしつこいｗ
ケイトは、某映画の「ルール.２　２度撃ち」を温室で実践すべきだったのではないか。

＊施設から養子を迎える条件・・・関係ないが、これは日本でもアメリカでも、かなり厳しい。経済的に逼迫していない事、前科が無いこと、精神・神経の病で通院歴が無いか、医師による完治の証明が出来ること、養子を迎える正当な理由があること、２週間以上の面会を最低でも半年間継続し親子関係を築ける同意が得られる事・・・他にもあるが、今作のような理由が通るかどうかは不明。少なくとも、この子が気に入ったので即お持ち帰り～というのは有り得ない。＊普通の養子縁組は、紙一枚でどうにでもなる。
＊アリアーナ・エンジニア（マックス役）・・・実に可愛い少女だが、彼女は本当の聴覚障害者であり、本編でも演技以上のリアリティがあるのは、そのため。正式にタレントとしてスカウトされており、この映画のために探してきたわけでは無い。今後の活躍が楽しみな名子役です。